宗教上の改名は特例として許可ケースと却下されるケースがあります。
改名が認められる宗教上の理由には、神官や出家(僧侶)などがありますが、実際はどうなのでしょう。
「得度を終えたのですぐにでも改名したい!」という方もいるかと思いますが、状況によって裁判所が申し立てを却下することがあります。
ここでは、出家や得度で僧侶になったことを理由にした改名事情について解説します!
また、出家以外に許可されやすい特例の改名の理由として襲名もあるので、そのあたりもご紹介しています。
出家で僧侶になっても改名は許可されない
出家して僧侶になったことを理由とした改名は、基本的に許可されやすいです。
許可されやすい理由として、僧侶の他に神官もそうですね。
僧侶はお寺に従事し、神官は昔使われた言葉で、神主のように神社に従事する神職を指します。
僧侶や神官は、職業上で改名が必要になることがあるため、一般的に改名が許可されやすい傾向です。
しかし、これらは改名の特例と言われるような理由ですが、許可されないケースもあります。
たとえば、「出家や得度をしただけ」の場合です。
他の改名する理由と同様に、状況によって却下されることがあるのです。
また、改名が悪用されることが増えたため、改名自体が今の時代は厳しくなっています。
出家したり神官になっても、一昔前のようにいくら仕事上で改名が必要になっても、簡単には認められません。
出家や得度で僧侶になると改名が必要なのか?
出家で僧侶になったことを理由にした改名は許可されやすいですが、そもそもなぜ僧侶になると改名するのでしょう。
僧侶になると改名する理由について少し触れたいと思います。
出家や得度とは?
出家とは、僧侶として生きるために世俗を離れて仏門に入ることを指します。
僧侶になるためには、仏教の世界に入るための得度と呼ばれる儀式を受け、その証に僧名(法名)が与えられます。
得度を受ければ僧侶になれるわけではなく、そこから寺院で数年間の修行を行うと僧侶になれます。
また、得度はすぐに受けられるわけではなく、仏教に関する深い知識を得るために仏教系の学部がある学校へ進学したり、直接寺院を訪ねて修行します。
出家をしても改名しない僧侶もいる
出家して僧名をもらうと同時に改名するのが基本のようなので、出家と改名は強い結びつきがあります。
改名が義務付けられている宗派があるので、そうなると戸籍から名前を変えるのは必須です。
僧侶にとって布教は1つの社会活動なので、宗教活動の支障をなくす上でも改名は重要な意味を持ち、改名の必要性も高まります。
ですが、改名が義務でない宗派もあり、名前を変えない僧侶もいます。
出家して僧侶になったからといって、必ず改名しなければいけない、ということではないようです。
出家や得度で改名が許可される理由
出家や得度によって僧侶になったことを理由に、改名が許可されるのどういった事情があるのでしょう。
まずは、許可されやすい理由を見ていきましょう。
出家や得度で許可されやすい理由
- 宗教活動が生活の大部分を占める
- 実生活で法名や僧侶名の実績がある
- 住職として寺を管理運営している
出家や僧侶を理由とした改名で却下された事例を参考にすると、上記のような理由があれば許可される傾向です。
僧侶としていかに実生活で社会活動しているかが重要というのがわかりますね。
得度を受けても修行などの期間も大切になります。
また、得度を受けたり、僧侶になった期間が短くても、法名や僧名の使用実績があれば、許可される可能性があります。
得度を受けてから授かる法名や僧名を、通称名として積極的に生活の中で使用するといいでしょう。
出家や得度で許可された事例
宗教生活態度から僧侶の職に従事しているものと認め、得度による僧侶への変更が認められた
/福岡高等裁判所昭和36年12月18日
僧侶になる意思は強く、学業の合間に宗教活動も実践し、僧名を使用したこともあることから、抗告人は、今後も僧侶の道を進むであろうことが推認され抗告人の切望する進路の実現に資することになり、抗告人の今後の生活に有益である
改名が他の者に対し格別の不利益や弊害を及ぼすとは考えられないことを考慮し正当な事由があるものと判断される
高松高裁決定平成9年10月15日
僧侶になっても改名が却下された理由
続いて、出家や得度で僧侶になったものの、改名が却下された事例です。
得度や出家で却下される理由
- 宗教活動が一部に過ぎない
- 得度などの儀式が形式だけ
- 在来出家である
- 通称などの証拠がない
- 得度をしてから期間が短い
- 入信している宗教団体から改名をすすめられた
- 信仰している宗教にまつわる名前にしたい
こういった状況だと、たとえ出家で僧侶になったとしても、それを理由に改名が却下される可能性があります。
出家して僧侶となるための最初の儀式に得度がありますが、得度を受けて僧侶になったとしても、形式だけで実質を伴わない場合は却下されます。
個人の思想や宗教の信仰上の理由も認められません。
出家や得度で却下された事例
たとえ僧侶の分限を取得し法名を称していても、宗教活動がその者の社会活動の主要面を占めることなく一部に過ぎない場合は、改名の「正当な事由」に当らない
単に社会活動の一部に支障があるということだけでは、名の変更を認める合理的必要性が乏しい
福岡高裁宮崎支部昭38.6.27
特定の寺の住職として寺を管理・運営するのではなく在家出家で僧侶となった場合、社会生活上何ら変動はなく、正当な事由があるとは認められない
新潟家庭裁判所三条支部 昭和44年(家)1215号 審判
申立人は教員の職にあり、僧侶となるための修行を積んだことがなく、そのかたわら僧職をつとめる意向であるため、改名することで社会的支障が広範囲に及ぶ
名の変更をしなければならない必要性が存在せず、入僧籍の一事をもって当然に改名の正当事由があるとするわけにはいかない
大分家庭裁判所竹田支部 昭和43年(家)84号 審判
襲名も改名が許可されやすい理由
宗派によって改名が義務付けられていることがあるため、出家(僧侶)を理由にした改名は許可されやすいです。
襲名は僧侶や神官のように改名の申立書に記載されている理由ではないですが、襲名も許可されやすい理由です。
襲名というと、歌舞伎役者や落語家が芸名(名跡)を継ぐことで知られていますが、営業上の目的から老舗の当主が長年の慣行として襲名を行う場合もあります。
長く続いているお店で先祖代々引き継がれている名前を襲名し、歌舞伎役者などとは違って芸名を継ぐのではなく、戸籍の名前を変えることがあります。
襲名で改名する場合は、襲名した事実を証明する必要がありますが、出家と同様に比較的許可されやすい改名の理由です。
ただし、改名はあくまでも「正当な事由」があることが条件です。
出家と同様に改名しなければならない正当性がなければ、改名の特例とされる「出家(僧侶)」「神官」「襲名」を理由にした改名でも許可されません。
裁判所に「戸籍の名前を改名しなくても生活で支障がない」と判断された場合は却下されます。
出家や僧侶を理由にした改名のまとめ
出家や僧侶を理由にした改名は許可されることが多いですが、必ずしも、出家したり得度をしたからといって、改名が認められるわけではありません。
襲名も特例として改名が許可される傾向です。
裁判所に改名を申し立てる際は、僧侶や襲名の証拠を用意するといいでしょう。