世の中にはさまざまな苗字(氏)があります。
佐藤や鈴木などの一般的な苗字から、四月一日(わたぬき)や苫米地(とまべち)などの、一見すると読めないようなものまで幅広いですよね。
ご先祖様の影響ゆえに生まれたときから不思議な苗字を背負っている方からすれば、もしかしたら戸籍の苗字が原因でイヤな思いをしたことがあるかもしれません。
苗字で苦い思い出を持っている人も少なくないでしょう。
そうなるとあたまに浮かぶのは戸籍の苗字の変更。
しかし、戸籍の苗字(氏)の変更はそれほど簡単な話ではありません。
苗字変更といえば、結婚や離婚などがありますが、いろんな理由で変えたい方がいます。
ここでは苗字(氏)変更のための条件や許可される理由、必要な書類、手続きについてお伝えしていきます。
戸籍の苗字変更は結婚や離婚だけじゃない
戸籍の苗字変更といえば。結婚や離婚がありますが、それ以外にも苗字を変更することができます。
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結婚や離婚で苗字が変更できる
一般的に苗字が変更できる理由は結婚と離婚があります。
結婚の場合、民法750条によって「夫又は妻の氏に苗字を変更しなければならない」と定められているため、自動的に戸籍の苗字が変更になります。
苗字の変更手続きができるというより、強制的に変更しなければならないということです。。
近年注目されている「夫婦別姓」は、この法律の一文によって手続きが認められていません。
また、結婚だけでなく、養子縁組・離縁の手続きによっても苗字が変更されます。
結婚や離婚など家族関係の変化によって苗字が変更されることは、法律上「氏の変動」と言い、氏(うじ)とは苗字を指す言葉です。
離婚後の苗字は、結婚後の苗字を名乗るのか、旧姓に戻すのかを選ぶことができます。
離婚しても現在の苗字を継続して名乗る場合は離婚の際に手続きを行います。
離婚から3か月以内に「婚氏続称の届」を夫婦の本籍地もしくは届出人の所在地の役所に提出して手続きが完了です。
理由があれば戸籍の苗字変更が可能
許可される条件を満たせば、誰でも戸籍の苗字を変更する手続きが可能です。
しかし、気軽に戸籍の苗字を変更できるものではなく、苗字変更の手続きは名前の改名よりも条件がかなり厳しいです。
結婚や離婚などの理由がない場合、それ以外の自己都合での理由で戸籍の苗字(氏)を変更するのは容易なことではありません。
これは離婚を理由にした場合も同じで、離婚から何年も経過していると苗字を変更するのが難しくなります。
「離婚から年数が経過していて旧姓に戻したい」「離婚後も結婚後の苗字を名乗りたいが3か月過ぎてしまった」となった場合、役所だけでは戸籍の苗字変更の手続きができません。
苗字変更の許可条件を満たして家庭裁判所へ申立てて許可をもらう必要があり、家庭裁判所での手続きに時間がかかるのでけっこう大変です。
子供の苗字を変更する場合も、家庭裁判所へ申立てることになります。
戸籍の苗字変更の許可条件
結婚や離婚などで戸籍の苗字が変更されるケースであれば、とくに苦労もなく変更できますが、自分の意思で苗字を変更する場合は、難易度がまったく変わります。
自らの意志で戸籍の苗字を変更するためには、どのような許可条件があるのでしょう。
戸籍の苗字変更の条件は7つ
自分の都合で戸籍の苗字を変更する場合、以下の7つの許可条件に該当しない限り変更は許可されません。
- 民法791条1項
- 民法751条1項
- 民法767条2項
- 民法816条2項
- 戸籍法107条2項
- 戸籍法107条3項
- 戸籍法107条1項
子が父または母と氏を異にする場合には、子は自分自身で家庭裁判所の許可を得て、父または母の氏を称することができる
夫婦のいずれか一方が死亡した場合、生存配偶者が自らの意思によって婚姻前の氏に戻すことができる
離婚による復氏(苗字を以前に戻すこと)から婚姻中の氏に変更することができる
離縁による復氏から養子縁組中の氏に変更することができる
外国人と婚姻した人が配偶者の氏に変更する場合、婚姻から6か月以内であれば家庭裁判所の許可を得ずに届で変更できる
外国人と婚姻し配偶者の氏に変更した人が離婚・婚姻取り消し・配偶者の死亡のいずれかののち、3か月以内であれば家庭裁判所の許可を届け出、変更の際に称していた氏に変更することができる
“やむを得ない事由”によって氏を変更したい場合、戸籍の筆頭者およびその配偶者が家庭裁判所の許可を得て届け出をすることで氏の変更ができる
結婚(国際結婚)や養子縁組などの特定の条件があれば特例で苗字を変更してもよいですよという内容ですが、気になるのは最後の“やむを得ない事由”の部分です。
許可条件のやむをえない事由とは?
戸籍の苗字変更の許可条件「やむをえない事由」とは、苗字を変更しなければ生活に使用が出てしまうことを意味します。
- 旧姓の氏に戻したい
- 結婚で称していた苗字に変更したい
- 奇妙な氏である
- 苗字がむずかしくて正確に読まれない
- 通称として永年使用した。
- 外国人の父や母の氏にしたい
改名の許可条件「正当な事由」と似ていますが、戸籍の苗字変更の許可条件は、正当性が強く求められ、基本的には許可しないというスタンスです。
真っ当な理由があれば許可される
原則、認められないが変更せざるを得ない状況と判断できる場合は許可する
戸籍の苗字変更の理由と許可の判例
「やむをえない事由」が戸籍の苗字変更の許可条件ですが、具体的にどんな理由なら変更が許可されるのでしょう。
戸籍の苗字を変更したい理由とは?
- 認知されていない事実上の父親と同じ苗字にしたい
- 亡くなった父親または母親の苗字に改姓したい
- 跡取りとして祖母の苗字に変更したい
- 長く使用している通称の氏に変更したい
- 内縁相手の苗字に変更したい
- 外国人の配偶者の苗字に変更したい
やむを得ない事由として離婚や養子縁組の理由以外に、苗字を長年使用していた場合や、珍奇や難読などの理由でも認められることがあります。
特別な理由がない場合、改名と同じで許可されやすい理由として「永年使用」による苗字の変更があります。
通称名として変更したい苗字を永年使用したことで許可されますが、永年の期間は家庭裁判所によって判断が異なります。
改名だと5年から10年ですが、苗字の変更だと10年程度の期間が目安です。
国際結婚で外国人の配偶者の苗字に変更したり、子供の苗字を親や祖父母の苗字に変更したいという理由は少なくないみたいですね。
内縁相手の苗字に変更することも不可能ではなく、内縁相手が亡くなっている、内縁相手の婚姻が破城しているなどの事情があると許可されやすいようですが、一筋縄ではいかないのが現状です。
普通に生活するうえで、戸籍の苗字が原因で何かしらのトラブルに発展する可能性が高いなどのリスクがない限りは、法律上認められることはないのです。
戸籍の苗字変更が許可された判例
元暴力団員の苗字変更が許可された判例
氏は元暴力団員として周知されており、事業運営や更生に大きな障害となっているため、実母の旧氏に変更したい
→前科を隠そうというものではなく、更生意欲の現れと見られ、今後暴力団関係者からの不当な関わりを断って正業に勤しむために、氏変更の必要も認められる
宮崎家庭裁判所 平成8年(家)2285号 審判
離婚後に旧姓への変更を許可された判例
昭和56年9月に協議離婚した後も婚氏の氏を引き続き称していたが、両親の保持する祭祀の承継者の立場になったこと等から旧姓の氏に復したい
→承継者は必ずしも氏を同一にする者にはかぎらないが、習慣や心情の上から氏が同じ者が承継すべきであるという事情も軽視できない
社会的に申立人の氏を変更することで特別不都合が起こる虞れもない
氏の変更は法秩序の維持と個人の自由意思の尊重の観点から判断されなければならないが、後者を優先させて差し支えない
山形家庭裁判所 平成元年(家)181号 審判
永年使用による苗字変更が許可された判例
独身と偽られて内縁の夫と同居し、夫の苗字を通称として昭和54年から16年余り使用していた
京都家庭裁判所 平成6年(家)638号 審判
戸籍の苗字変更の手続きと書類
苗字変更の許可条件に該当すれば、戸籍の苗字を変更することができます。
苗字変更の手続きは、まずは家庭裁判所で手続きを行います。
離婚やその他の理由で家庭裁判所に戸籍の苗字変更を申立てるためには、どのような書類や手続きが必要なのでしょう。
許可されるまでの流れや必要書類や手続きを見ていきましょう。
戸籍の苗字変更手続きに必要な書類
- 氏の変更許可申立書
- 苗字の変更理由が記載された資料
- 本人の戸籍謄本
- 同一戸籍内にある15歳以上の人からの同意書
- 収入印紙800円
- 連絡用郵便切手
子供の苗字変更手続きに必要な書類
- 氏の変更許可申立書
- 子供の戸籍謄本
- 父親の戸籍謄本
- 母親の戸籍謄本
- 収入印紙(800円)
- 連絡用郵便切手
- 子の氏変更手続き
家庭裁判所に提出する「氏の変更許可申立書」は、ネットからダウンロードしたり家庭裁判所で配布されており、書類の必要事項を記入するだけでOKです。
スムーズに家庭裁判所から苗字変更が許可されるためには、証拠書類の提出も望ましく、戸籍の苗字変更が必要な理由の裏付けとなる証拠を提出します。
申立て理由にもよりますが、証拠書類として苗字変更なら家族関係を示す証拠(同居の事実証明)や、通称の使用実績があります。
申立書に戸籍の苗字の変更理由を記入する欄があるので、ここに詳細に書いておけば2番目の資料は不要になる場合もあります。
また、連絡用切手の費用は各家庭裁判所によって異なり、84円×4が目安です。
高くても1500円~3000円くらです。
申立てる子供の人数によって収入印紙の数が異なるので注意してください。
苗字変更の手続きの流れ
戸籍の苗字変更の必要書類が揃ったら、いよいよ家庭裁判所で苗字の変更手続きを行います。
苗字変更の手続きと流れ
- 苗字変更の必要書類をもって管轄の家庭裁判所に提出する
- 苗字変更の理由を書面照会や家庭裁判所での面談で説明して変更を許可をもらう
- 家庭裁判所に許可されたら「審判書謄本」と「確定証明書」が発行される
- もらった上記の書類を持って役所の戸籍課で変更手続きを行う
- 戸籍の苗字の変更手続き完了
戸籍の苗字変更手続きは、まず申立人の住所を管轄する家庭裁判所へ申立てます。
そして家庭裁判所から変更の許可が出たら、住居地の役所で正式に戸籍の苗字変更の手続きをして完了です。
申立書のダウンロードと家庭裁判所の場所は「家庭裁判所の管轄区域」で確認できます。
少々めんどうではありますが、「1.申立て→2.書面照会・面談→3.役所で戸籍の苗字変更」という流れで手続きを行います。
改名の手続きとあまり変わらず、それほど複雑な手続きはありません。
子供が15歳未満の場合は、親などの法定代理人が家庭裁判所への申立てからその後の手続きを全て代行します。
戸籍の苗字変更手続きの注意点
仮に苗字変更の許可条件が合致して戸籍の苗字が変更できたとしても、ひとつだけ注意しなければならないことがあります。
それは苗字変更の手続きをすると、家族全員の苗字が変わってしまうことです。
法律上、同一の戸籍に入るには同一の苗字でなければならないため、一人だけを変更手続きするということはできません。
つまり、息子が苗字のせいでいじめたらとなれば、父親も母親も苗字を変えなければならないのです。
これをメリット・デメリットと感じるかどうかは家庭や状況で変わってくると思いますが、苗字を変更すること自体に何かデメリットがあるわけではありません。
戸籍の苗字変更手続きと必要書類のまとめ
戸籍の苗字変更が許可される条件や手続き方法ついてお伝えしてきましたが、よほどの理由がない限り自主的に苗字を変更するのは難しいです。
結婚・離婚などで強制的に変わる場合を除いて、気軽に変更手続きができることはないと考えておいた方が無難かもしれません。
それでも、どうしても苗字を変えたい、変えなければならないのであれば、きちんと変更するべき理由を考えてみてください。
苗字を変えなければ生活に支障が出るという状況ならば、「やむを得ない事由」として家庭裁判所は変更を許可します。
まずはあきらめずに、客観的に自分の置かれている環境を見つめなおしてみましょう。
それこそが苗字を変えるための第一歩になるのですから。
姓名の改名についての記事を書いてくださり、ありがとうございます。私も将来、改名したいと考えています。
今回の「名字の変更」についてお伺いしたいです。
「苗字変更の手続きをすると、家族全員の苗字が変わってしまうことです」という記述がありますが、名字を変更する本人が分籍した場合、私の家族の苗字は変わりませんか。
また、分籍したとしても、名字変更申立には親の戸籍謄本など家族関係がわかるものを持参しなくてはならないですか。
10年以上通称名を使用し、名前、できれば名字も変えたいと思います。回答よろしくお願いします。
名字を変更する本人が分籍していれば、他の家族の名字は変わりません。
また、申立てに必要な戸籍謄本は申立人のものだけです。